日銀、政策金利1.25%に利上げ決定 円安・株高という「逆の反応」の理由

経済

日本銀行は9月18日の金融政策決定会合で、政策金利を年1.0%程度から1.25%程度へ引き上げることを賛成7、反対2の多数決で決定した。6月会合に続く3カ月ぶりの利上げで、2025年12月の利上げから数えるとこの9カ月で3回目の利上げとなる。新たな金利は9月24日から適用される。市場では「利上げは円高要因」という見方が一般的だが、決定当日の外国為替市場では逆に円が売られ、一時1ドル=158円台まで下落する場面があった。何が起きていたのか、確定している事実と今後の見通しを整理する。

政策金利を0.25%引き上げ1.25%に、採決は7対2で決定

日銀が18日に公表した「金融市場調節方針の変更について」によると、無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導目標を0.25ポイント引き上げ、1.25%程度で推移するよう促すことを決定した。これに伴い、日銀当座預金への付利金利にあたる補完当座預金制度の適用利率も1.25%に、補完貸付制度の基準貸付利率も1.5%に、それぞれ改定した。新たな金利は翌営業日にあたる9月24日から適用される。

採決は9人の政策委員のうち7人が賛成、2人が反対という結果だった。賛成したのは植田和男総裁、氷見野良三・内田眞一両副総裁、高田創、田村直樹、小枝淳子、増一行の各審議委員。反対したのは浅田統一郎委員と佐藤綾野委員で、浅田委員は「足もとの消費者物価(除く生鮮食品)の上昇率が2%を下回るなか、経済の状況も必ずしも強いとはいえない」として、佐藤委員は「経済・物価情勢が、これまでと比べて大きく加速している状態にあるわけではない」として、それぞれ据え置きを主張していた。NHKや日本経済新聞など複数の報道によれば、1.25%という水準は1995年以来およそ31年ぶりの高さになるという。

6月からわずか3カ月、加速する利上げのペース

日銀の金融政策は2024年3月19日にマイナス金利を解除したのを起点に動き出した。2024年7月に0.25%程度、2025年1月に0.5%程度へと、当初はおおむね半年ごとに利上げが進んだ。ところがその後、通商政策を巡る不透明感などを背景に利上げは一時停止し、複数の報道によれば2025年1月から12月まで、実に11カ月・6回近い会合にわたって据え置きが続いたとされる。この「休止期」を経て2025年12月19日に0.75%程度(全員一致)へと利上げを再開すると、2026年に入ってからは6月16日に1.0%程度(賛成7反対1)、そして今回9月18日に1.25%程度と、3カ月ごとの利上げが2回続いた。約1年の足踏みを挟んで、直近では利上げペースがむしろ加速していることになる。

もっとも、この「加速」を単純な引き締め姿勢の強まりとだけ捉えるのは早計だ。日銀は声明で、原油高や円安に加えAI関連需要拡大の影響から国内企業物価が高い伸びを続けていること、それが消費者段階にも波及し始めていることを利上げの理由に挙げる一方、「政策金利の変更後も、緩和的な金融環境は維持される」ともしている。

もう少し長い時間軸で見ると、日銀は2006年7月にいったんゼロ金利を解除して0.25%程度へ、2007年2月には0.5%程度へと利上げした経緯がある。ところが2008年秋のリーマン・ショックで景気が急速に悪化し、同年10月には0.3%程度への利下げに転じた。その後デフレ脱却が進まないまま2013年の異次元緩和、2016年のマイナス金利導入と緩和が続き、2020年前後のコロナ禍でも超低金利が維持された。つまり2007年に付けた0.5%という水準は、その後およそ17年にわたって日銀が超えることのなかった「天井」だった。これを2024年3月のマイナス金利解除以降にようやく突破し、わずか2年半で1.25%まで駆け上がったことになる。「利上げは何度もあった」というより、「17年間動けなかった天井を破ってからの加速」と捉えるほうが実態に近い。

なぜ利上げに踏み切ったか、原油高とAI需要がもたらす物価上振れ警戒

日銀が利上げの根拠として挙げたのは、主に3点だ。第一に中東情勢の影響を受けた原油価格の上昇。第二に為替円安が輸入物価を通じて国内価格を押し上げていること。第三にグローバルなAI関連需要の拡大が半導体価格などの上昇につながっていることだ。声明では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は足もとで「1%台後半」にとどまるものの、2026年度後半以降は原油高やAI需要拡大に伴う価格転嫁、円安による耐久財価格の上昇などから「2%をはっきりと上回る水準」まで伸び率を高めると予想し、その後2027年度にかけて2%程度に落ち着くとの見通しを示した。

つまり日銀は、現時点の物価上昇率そのものよりも、先行きの上振れリスクを警戒して動いたことになる。声明は「基調的な物価上昇率が2%の『物価安定の目標』を超えて上振れていくリスクがある」と明記しており、これが2人の反対を押し切ってでも利上げに踏み切った理由とみられる。

利上げなのに円安に振れた9月18日夜の為替市場

ここで多くの人が直感的に誤解しやすいのが、「利上げ=円高」という単純な図式だ。日米の金利差が縮小すれば円が買われやすくなるというのが教科書的な理屈だが、今回はその逆の値動きになった。日本経済新聞や読売新聞、TBS NEWS DIGなどの報道によると、18日夜の外国為替市場で円相場は一時1ドル=157円台後半〜158円台まで下落し、約2週間ぶりの円安水準をつけた。

なぜ利上げ決定にもかかわらず円が売られたのか。市場関係者からは、9人中2人が反対票を投じたことで採決結果が「賛成多数だが全会一致ではない」と受け止められ、今後の追加利上げのペースが従来の観測より緩やかになるとの見方が広がったことが指摘されている。利上げ幅そのものよりも、政策委員会内の温度差が「タカ派一色ではない」というメッセージとして市場に伝わり、事前に積み上がっていた円買いポジションの巻き戻しを誘った格好だ。つまり、利上げという事実そのものよりも、その利上げが「今後どれだけ続くか」という期待形成の方が、為替相場には強く効くことがある。この点は、今回のケースが示す教訓と言える。

日経平均は6万5000円台を回復、株式市場は「悪材料」と受け止めず

株式市場の反応も、利上げ=株安という単純な図式とは異なった。日本経済新聞によると、18日の東京株式市場で日経平均株価は前日比882円70銭(1.4%)高の6万5018円95銭で取引を終え、65000円台を回復した。日銀の利上げが事前に市場のコンセンサスとしてほぼ織り込まれていたうえ、2人の反対により緩和的(ハト派的)な運営スタンスと受け止められたことが、リスク資産である株式への資金流入を後押ししたとみられる。日本経済新聞は「金融政策の一大イベントを通過し、リスク資産である株式に資金を戻す動きが広がった」と伝えている。

なお、日経平均はこの数カ月、9月上旬までに史上最速で7万円の大台に到達した後、9月に入って6万5000円台まで伸び悩む展開が続いていた。今回の利上げ通過による上昇は、その足踏み局面からの反発という位置づけになる。

住宅ローンと預金の金利はどう変わるか

生活への影響が最も直接的に及ぶのが、住宅ローンと預金の金利だ。住宅ローン利用者の7割超が選ぶとされる変動金利型の場合、政策金利の引き上げは銀行の店頭金利や適用金利の見直しにつながりうる。各種メディアの試算例では、借入額4000万円・返済期間35年のケースで、適用金利が1.5%から0.25ポイント上がって1.75%になると、月々の返済額はおよそ12万2000円台からおよそ12万7000円台へ、5000円前後増える計算になる。

ただし、政策金利が0.25%上がったからといって、住宅ローンの適用金利がそのまま0.25%上がるとは限らない点には注意が要る。各行が独自に金利を決めるうえ、多くの変動金利型ローンには「5年ルール」(金利が上がっても5年間は毎月の返済額を据え置く)と「125%ルール」(6年目以降に返済額を見直す際も直前の1.25倍を上限とする)が組み込まれており、負担増は一括ではなく段階的に顕在化する仕組みになっている。

預金金利については、3メガバンクが軒並み普通預金金利の引き上げに動いた。三菱UFJ銀行が18日付で公表した資料によれば、円普通預金金利を年0.40%から0.50%へ、11月2日付で改定する。三井住友銀行・みずほ銀行も同様に0.5%への引き上げを発表しており、日本経済新聞は旧行時代の1992年8月以来およそ34年ぶりの高水準になると報じている。ゆうちょ銀行も同日、通常貯金の金利を0.4%から0.5%に引き上げると発表したと報じられている(適用は11月9日から)。単純計算すると、1000万円を普通預金に預けた場合の年間利息(税引前)はこれまでの4万円程度から5万円程度に増える計算だ。もっとも、消費者物価の前年比が足もとで1%台後半、先行き2%超まで高まると日銀自身が見込んでいることを踏まえると、預金金利の上昇分は物価上昇に追いつかず、実質的な目減りが続く構図に変わりはない。

中小企業への影響は「限定的」、ただし負担増そのものは避けられない

企業側への影響を見ると、帝国データバンクが9月18日に公表した試算が参考になる。有利子負債を抱え支払利息が発生している全国約16万8000社(2025年度決算ベース)を対象に分析したところ、借入金利が0.25%上昇した場合、1社当たり平均で年間46万円の支払利息負担が増える計算だという。同社の分析では、日銀短観6月調査を踏まえても企業の資金繰りに顕著な悪化は見られず、支払利息等の営業利益に対する比率も総じて低い水準で安定しているとして、資本増強などバランスシート改善が進んだ企業活動全体への影響は「限定的」との評価を示している。

ここで見落とせないのは、「全体として対応力がある」という評価と、「個々の企業の負担が増える」という事実は矛盾しないという点だ。平均値が示す全体像の落ち着きと、借入依存度の高い個別企業が実際に負担増に直面する現実は、切り分けて捉える必要がある。

次回会合は10月29〜30日、追加利上げのペースは見通せず

今後の金融政策運営について、日銀は声明で「経済・物価・金融情勢に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」としつつ、「調整のタイミングやペースについては、中東情勢やAI関連需要の拡大、為替相場の変動の影響を含め、経済・物価の中心的な見通しが実現する確度やリスクを点検しながら、検討していく」とも述べている。つまり、追加利上げの方向性自体は示しているものの、次にいつ、どのくらいの幅で動くかは現時点では発表されていない。次回の金融政策決定会合は10月29〜30日に開かれる予定で、植田総裁は会合後に定例記者会見を行う見通しだ。

よくある質問

Q. 住宅ローンの返済額はいつから変わるのか。
A. 変動金利型は多くの銀行で年2回(4月・10月など)適用金利を見直す仕組みが一般的で、実際の見直し時期や幅は借入先の金融機関により異なる。今回の政策金利変更を受けた各行の店頭金利・優遇金利の発表は順次行われる見込みだが、本記事執筆時点で全行の具体的な改定日は出そろっていない。

Q. 普通預金の金利はいつから上がるのか。
A. 三菱UFJ銀行など3メガバンクは2026年11月2日付での改定を発表済みだ。ほかの金融機関についても順次発表される見通しだが、時期や幅は各行の判断による。

まとめ

今回の利上げそのものは、日銀が事前に示唆していた方向性の延長線上にあり、驚きは小さかった。むしろ注目すべきは、政策決定という「確定した事実」と、それに対する市場の「期待の変化」が食い違ったときに何が起きるかという点だ。利上げが決まったのに円が売られ、金融引き締めが決まったのに株が買われる。一見矛盾するこの反応は、市場が政策金利の水準そのものよりも「この先どれだけ、どんなペースで動くか」という将来像を織り込んで動いていることを映し出している。政策金利の数字だけを追いかけていては、相場や暮らしへの影響を読み違えかねない。次回10月末の会合に向けて、原油相場や為替、そして政策委員会内の意見の分かれ方に、引き続き注目が必要だろう。

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