日本レコード協会(RIAJ)が2026年8月31日に公表した2026年1月〜6月(上半期)の「音楽ソフト・音楽配信売上推計」によると、国内の音楽ソフト・音楽配信の売上推計は合計1965億円で、前年同期比104%となった。CDを含む音楽ソフトは前年同期比93%と縮小が続く一方、音楽配信は同117%と伸び、ストリーミングだけで市場全体の46%を占めるまでになっている。
興味深いのは、伸びているのが配信だけではないという点だ。同じ上半期のデータで、アナログレコード(レコード盤)の売上推計は53億円と前年同期比142%。CDが11%減った裏側で、レコードは4割以上増えている。「音楽市場はストリーミングに一本化されつつある」という単純な図式では説明しきれない動きが起きている。
上半期の内訳、伸びたもの・縮んだもの
RIAJが公表した内訳を整理すると、次のようになる。
| 項目 | 2026年上半期 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 売上推計合計 | 1965億円 | 104% |
| 音楽ソフト計 | 995億円 | 93% |
| うちCD | 720億円 | 89% |
| うちアナログレコード | 53億円 | 142% |
| 音楽配信計 | 969億円 | 117% |
| うちストリーミング/サブスクリプション | 790億7000万円 | 119% |
| うちストリーミング/広告収入 | 117億8200万円 | 120% |
ストリーミングはサブスクリプション(有料会員向け配信)も、広告収入型(無料で聴ける代わりに広告が入るサービス)も、ともに前年同期比で2割前後伸びている。一方でCDは1割強の減少が続く。音楽ソフト全体では995億円と前年同期比93%まで落ち込んだが、音楽配信の伸びがそれを相殺し、市場全体としてはプラスに転じた形だ。
この「売上推計」は、RIAJの会員社の報告実績に、市場占有率をもとに算出した非会員社分の推計値を加えた、国内レコード市場全体を捉えるための指標だ。RIAJは2026年2月に予告したうえで、同年3月に2025年年間分を初めて公表し、以降は四半期ごとに公表する方針としている。従来から公表されてきた「生産実績」(会員社が製造した数量・金額のみを集計したもの)とは対象範囲が異なる、比較的新しい統計であることは押さえておきたい。
2025年通期で見ると、伸びの主役は依然ストリーミング
直近の四半期データだけでなく、2025年通年(1〜12月)の数字と合わせて見ると、傾向がより立体的に見えてくる。2025年の売上推計合計は3988億円で前年比110%。このうち音楽配信は1700億円(前年比107%)で、なかでもストリーミングは1580億円(同109%)と、市場拡大のほぼすべてを牽引した格好だ。音楽ソフトの内訳では、CDが1686億1900万円、音楽ビデオが507億1500万円、アナログディスクが88億4700万円だった。
つまり、2025年から2026年上半期にかけての「音楽市場拡大」は、CDや音楽ビデオが持ち直したからではなく、ストリーミングというひとつの柱がほかの落ち込みを覆い隠すほど伸びている、という構図で説明できる。ここを取り違えると「音楽業界がCD不況を脱して全面的に復調している」という誤読につながりかねない。実態は、フォーマットごとの明暗がこれまで以上にはっきり分かれている、という方が正確だろう。
CDが11%減っても「音楽業界の縮小」と単純化できない理由
ではCDの11%減は「音楽が売れなくなった」ことを意味するのか。長期の推移を見ると、話はもう少し込み入っている。
日本国内の音楽CDの生産金額は1998年に、シングル・アルバム合計で約5879億円(レコードやカセットテープを含む音楽ソフト全体では約6075億円)に達し、これが過去最高となった。CDの生産枚数も同年に4億5717万枚を記録し、これも国内過去最高である。ここが日本の音楽産業のピークだった。
その後CDの年間販売枚数は減少が続き、10年後の2008年には2億4221万2000枚、20年後の2018年には1億3720万5000枚まで縮んだ。ピークの1998年と比べると、2018年時点で枚数ベースでは3割以下まで落ち込んでいる計算になる。つまり「CDが売れなくなった」こと自体は、この10年で急に始まった現象ではなく、1999年以降ほぼ一貫して続いてきた27年がかりの構造変化だ。2026年上半期の11%減も、この長い下り坂の延長線上にある数字であり、突発的な失速というより「いつも通りの縮小」に近い。
一方で、この27年間の下り坂の中でも、市場全体の縮小ペースは近年は緩やかになっている。2025年の売上推計合計3988億円は、CD全盛期の6075億円と単純比較できる統計ではないものの(前述の通り集計方法が異なる)、少なくとも「音楽にお金を払う」という行為そのものが消えたわけではなく、支払い先がCDからストリーミングへと移り変わってきた、という見方の方が実態に近い。
あえて比較的近い条件で並べると、輪郭がもう少しはっきりする。1998年のピーク時、CD・レコード・カセットテープなどを合わせた「音楽ソフト(オーディオ)」の生産金額は約6075億円だった。これに対し、2025年の売上推計でCD・アナログディスク・オーディオその他を合計すると約1781億円(1686億1900万円+88億4700万円+6億500万円)となる。集計主体(会員社のみか非会員社を含むか)や集計段階(生産ベースか市場推計ベースか)が異なるため厳密な同一基準の比較ではないが、目安としてはピーク時の3割弱の水準にとどまっている計算だ。ここに音楽配信の売上(2025年で1700億円)を単純に足し合わせても、往時の水準には届いていない。「ストリーミングのおかげで音楽市場は完全復活した」という理解は、この長期の落差を見落とした誤読だと言える。
なぜレコードだけ「もう一段」伸びているのか
CD、音楽ビデオが軒並み苦戦する中で、アナログレコードだけが前年同期比142%という際立った伸びを見せているのはなぜか。
ひとつの手がかりが供給側の動きだ。国内のレコードプレス工場は長年、老朽化した既存設備に頼らざるを得ない状態が続いていたが、2024年3月には埼玉県川口市に新しいレコードプレス工場「VINYL GOES AROUND PRESSING」が竣工し、同年7月24日から受注・生産を開始した。運営会社のPヴァインによれば、これは国内4カ所目となるレコードプレス工場だという。長らく「作りたくても作れない」状態が続いていたレコード生産の供給制約が、近年になってようやく緩み始めている。
需要側では、RIAJが公表している別の統計「生産実績」(会員社の製造ベース、非会員社を含む前述の「売上推計」とは別の指標)でも、2025年のアナログレコードの生産金額は80億円を超え、1988年以来37年ぶりの水準に達したことが明らかになっている。しかもこれは単年の跳ねではなく、数量・金額ともに5年連続のプラス成長だという。CDのようにストリーミングへ需要が完全に置き換わるのではなく、「所有する体験」「大きなジャケットで作品を楽しむ体験」に価値を見出す層が、ストリーミングと併存する形で一定の市場を作り続けている、と捉えるのが妥当だろう。
ストリーミングとレコードは、一見すると正反対の方向を向いた商品に見える。前者は「聴き放題・所有しない」ことを前提にした仕組みであり、後者は「一枚を選んで所有する」ことに価値を置く仕組みだからだ。それでも両方が同時に伸びているのは、音楽との関わり方が一様ではなくなっていることの表れだろう。日常的に大量の曲を聴き流す用途はストリーミングが担い、特定のアーティストや作品に強く思い入れがある場合はレコードという形で手元に残す、という使い分けが並存し始めている、と見ることもできる。ただし、これはあくまで公表されている売上データから推測できる一つの見方であり、聴取者の意識調査など裏付けとなる一次データは本記事の情報源には含まれていない。
「音楽業界は復活した」のか、「縮小が続いている」のか
ここまでの数字を並べると、一見矛盾する2つの見方が両方とも成り立つように見える。「ストリーミングとレコードのおかげで音楽市場は成長軌道に戻った」という見方と、「CDという主力商品が四半世紀にわたって縮み続けている以上、音楽産業の地盤沈下は終わっていない」という見方だ。
どちらも部分的には正しい。売上高という金額ベースで見れば、2025年は前年比110%、2026年上半期も同104%と、確かに市場は拡大している。しかしこれは、CDというかつての主力商品が持ち直したからではなく、単価も購入・視聴の仕方もまったく異なるストリーミングという新しい商品が、市場のパイを作り替えながら拡大しているために起きている現象だ。CDの11%減という数字だけを見れば産業は縮小しているように見え、合計の104%という数字だけを見れば拡大しているように見える。両方の数字を同時に見て初めて、「フォーマットの主役交代が進行中の産業」という実態が見えてくる。
今後の発表予定
RIAJは「売上推計」を四半期ごとに公表する方針を示しており、2026年7〜9月期や下半期(7〜12月)を含む通期の数字は、本記事の時点ではまだ発表されていない。上半期のCDの11%減、レコードの42%増という傾向がそのまま続くのか、それとも変化するのかは、次回以降の発表を待つ必要がある現時点での「見通し」の域を出ない話であることは付け加えておきたい。
まとめ
2026年上半期の音楽市場は、CDが11%減る一方で、ストリーミングが2割前後、レコードが4割超伸び、合計では前年同期比104%というプラスの数字に落ち着いた。1998年のピークからの27年間で音楽ソフトの中心はCDから配信へと移り変わり、その過程でレコードという「一度は消えかけたフォーマット」が新しい役割を得て復権しつつある。数字が示しているのは、単純な「回復」でも「衰退」でもなく、聴き方・買い方の主役が入れ替わり続けている、息の長い構造転換の途中経過だと言えそうだ。
よくある質問
Q. 音楽配信(サブスクリプション)の市場規模はどのくらいですか。
A. RIAJの売上推計によると、2026年上半期のストリーミング/サブスクリプションの売上推計は790億7000万円(前年同期比119%)。広告収入型ストリーミングを合わせたストリーミング全体では909億円で、音楽ソフト・音楽配信合計1965億円の46%を占めています。
Q. CDの売上はなぜ減り続けているのですか。
A. CDの生産金額は1998年(約5879億円)をピークに、1999年以降ほぼ一貫して減少が続いています。2026年上半期のCD売上推計も720億円で前年同期比89%でした。ストリーミングという定額・都度課金の視聴手段が普及したことで、パッケージメディアを購入する需要そのものが縮小してきた27年がかりの流れの延長線上にあります。
Q. アナログレコードはなぜ人気が再燃しているのですか。
A. 本記事の情報源では、需要側の詳しい理由までは明らかにされていません。ただし供給面では、2024年に国内4カ所目となるレコードプレス工場「VINYL GOES AROUND PRESSING」が稼働を始めるなど、長年のボトルネックだった生産能力の制約が緩和されつつあります。RIAJの生産実績データでも、2025年のアナログレコード生産金額は80億円を超え、1988年以来37年ぶりの水準に達し、数量・金額とも5年連続のプラス成長となっています。
Q. 日本の音楽市場は今、成長しているのですか、縮小しているのですか。
A. 売上高の合計では2025年が前年比110%、2026年上半期が同104%と、金額ベースでは拡大が続いています。ただしこれはCDなど音楽ソフトの持ち直しによるものではなく、音楽ソフトは同時期に前年比93%まで縮小しており、ストリーミングの伸びがそれを上回って市場全体を押し上げている構図です。フォーマットごとの明暗が分かれている、という点に注意が必要です。
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