厚生年金の上限、2027年9月から3段階で75万円に 対象外の人にも関係する理由

経済

厚生年金保険料の計算のもとになる「標準報酬月額」の上限が、2027年9月から2029年9月にかけて、現在の65万円から75万円へと3段階で引き上げられる。すでに成立した年金制度改正法の一部で、対象になるのは毎月の報酬(賞与を除く)が66万5000円以上の会社員や役員だ。「一部の高所得者だけの話」に見えるが、厚生年金全体の財政が改善することを通じて、対象にならない人の将来の年金水準にもわずかに関係してくるとされている。何がどう変わるのか、確定していることと、まだ分からないことを整理する。

2027年9月から3段階で上限が75万円に

今回の引き上げの根拠になっているのは、2025年6月13日に成立した「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」(令和7年法律第74号)だ。厚生労働省が公表した法律の概要によると、施行日は原則として2026年4月1日だが、標準報酬月額の上限引き上げに限っては別の日程が定められている。

具体的には、2027年9月1日に65万円から68万円へ、2028年9月1日に68万円から71万円へ、2029年9月1日に71万円から75万円へと、3回に分けて引き上げられる。日程自体は法律で決まっている確定事項だ。一方で、引き上げ後の保険料や年金額として示されている金額は、いずれも2024年度の価格を基準にした概算であり、今後の賃金や物価の動き次第で実際の数字は変わり得る、という点は区別しておく必要がある。

「標準報酬月額」とは何か、なぜ上限があるのか

厚生年金保険料も、将来受け取る年金額も、給料そのものではなく「標準報酬月額」という区分に基づいて計算される。この標準報酬月額には下限と上限があり、上限を超える収入があっても、保険料も年金額もそれ以上は増えない仕組みになっている。上限が設けられている理由について厚生労働省は、高所得者や会社側の保険料負担に配慮しつつ、給付額の差が際限なく広がらないようにするためだと説明している。

この上限は一度決めたら終わりではなく、法律上のルールに基づいて見直されてきた。厚生年金保険法は、全被保険者の標準報酬月額の平均の2倍に相当する額が、その時点の上限を超える状態が続いた場合、上限の上に等級を追加できると定めている。

上限は70年余りでどう動いてきたか

厚生労働省の資料をたどると、上限額は1954年(昭和29年)の1万8000円から、1965年6万円、1976年32万円、1985年47万円、1989年53万円、2000年62万円と、経済成長や賃金上昇に合わせて段階的に引き上げられてきた。直近の改定は2020年9月で、当時の上限だった62万円の上に65万円の等級が政令で追加された。2016年3月以降、全被保険者の平均標準報酬月額の2倍が62万円を上回る状態が続いていたことが理由だ。

つまり2020年の引き上げは政令による小幅な等級追加だったのに対し、今回は法律改正によって「75万円」という到達点そのものを決めた上で、3年かけて段階的に移行するという点で性格が異なる。改定の間隔で見ても、2000年から2020年までは20年間動きがなかったのに対し、2020年から2027年までは7年というスパンで次の引き上げが来ることになる。

報酬によって保険料・年金額はいくら変わるか

厚生労働省が公表した試算(2024年度価格)によると、月々の保険料(本人負担分、労使折半後の金額)は次のように変化する。

報酬月額が63万5000円〜66万5000円の人は、新しい上限の対象外にとどまるため、標準報酬月額は65万円のまま、保険料は現行の月5万9475円から変わらない。66万5000円〜69万5000円の人は標準報酬月額が68万円になり、保険料は月6万2220円へと実質約1800円増える。69万5000円〜73万円の人は71万円区分となり月6万4965円へ実質約3700円増、73万円以上の人は最終的に75万円区分となり月6万8625円へと、社会保険料控除を考慮した実質負担で約6100円増える見通しだ。

年金額への影響も試算されている。75万円の区分に10年間該当した場合、将来の年金額は月額約5100円増える見込みで、68万円区分に10年該当した場合は約1500円増、71万円区分の場合は約3000円増とされる。いずれも「終身」で受け取れる金額であり、保険料の負担増が一過性で終わらない点も踏まえておきたい。

「上限に達する人の割合」を読むときに注意したい誤読

厚生労働省の資料には、各年3月末時点で標準報酬月額が上限等級に該当する被保険者の割合の推移も示されている。それによると、2019年3月末(平成31年3月末)は6.7%(267万人)、2020年3月末は6.9%(277万人)だったのに対し、2021年3月末には5.8%(233万人)へと落ち込み、その後2022年3月末6.0%、2023年3月末6.2%、2024年3月末6.6%(279万人)と再び上昇している。

ここで「2021年に高所得者が急に減った」と読むのは誤りだ。2020年9月に上限そのものが62万円から65万円に引き上げられたため、それまで62万円の等級にまとめて張り付いていた人たちの一部が、新しくできた65万円の等級(あるいはそれ以下)に散らばった。つまり物差し自体が動いたことで、見かけ上の該当率が下がっただけであり、実際の高所得層の人数が減少したわけではない。上限の該当率を年ごとに比較するときは、上限額そのものが変わっていないかを必ず確認する必要がある。

なお、上限該当者の男女差も大きい。2024年6月時点で、男性の該当率9.6%(243万人)に対し、女性は2.0%にとどまる。男女間の賃金格差が、そのままこの数字の差として表れている構図だ。

対象にならない人にも関係する理由

今回の対象は報酬月額66万5000円以上の人に限られるが、厚生労働省はこの見直しによる厚生年金全体への給付水準への影響を「プラス0.2%」としている。高所得層からの保険料収入が増えることで年金財政全体が改善し、対象にならない人を含めた厚生年金の給付水準も、わずかながら底上げされるという理屈だ。基礎年金の金額自体はこの措置で直接変わるわけではない。

どれくらいの人がすでに影響を受けうる水準にいるのか。厚生労働省の資料では、2024年6月時点で厚生年金(第1号厚生年金被保険者)のうち、現行の上限である標準報酬65万円に該当する人の割合は男女計で6.5%(約278万人)、男性に限ると9.6%(約243万人)となっている。ただし、この数字は「現在の上限(65万円)にすでに達している人」の割合であり、今回新たに保険料増の対象となる「報酬66万5000円以上の人」の数そのものではない。標準報酬65万円の等級には、実際の報酬が63万5000円〜65万円程度の人も含まれているため、両者を混同しないよう注意が必要だ。

75万円で終わりではない、次の見直しルール

今回の法律には、2029年9月に75万円へ到達した後の話も含まれている。これまでの上限見直しは「全被保険者の標準報酬月額の平均の2倍が、その時点の上限を超える状態が続いたとき」という基準で行われてきたが、新しい法律では、これに加えて「最高等級に該当する被保険者が全体に占める割合」に基づいても見直しができるルールが導入される。健康保険の標準報酬月額では、最高等級該当者の割合が1.5%を超えたら等級を追加できるという基準がすでに使われているが、厚生年金の新ルールに具体的な割合の基準値が何%に設定されるのかは、今回参照した資料の範囲では示されていない。75万円という到達点は決まっていても、その先どのくらいの周期で見直しが行われるようになるのかは、今後の制度運用を見ていく必要がある。

同じ法律に含まれる「106万円の壁」撤廃との関係

今回の標準報酬月額上限引き上げは、パート従業員の「106万円の壁」と呼ばれてきた賃金要件の撤廃や、在職老齢年金制度の見直しなどとともに、同じ令和7年法律第74号に盛り込まれた措置のひとつだ。高所得層の負担を増やす一方で、短時間労働者が保険料負担を気にせず働ける環境を整えるなど、加入者の裾野を広げる改正が同時に進んでいる点は押さえておきたい。

まだ決まっていないこと

一方で、この法律には「次期財政検証で基礎年金の給付水準低下の見通しが著しい場合、基礎年金と厚生年金の給付調整(マクロ経済スライド)を同時に終了させるための法制上の措置を講じる」という将来に向けた規定も含まれている。これは方向性を示したものであり、実施するかどうかや具体的な内容は今後の財政検証の結果を踏まえて改めて判断される。現時点で基礎年金の給付水準そのものが引き上げられることが決まったわけではない。

よくある質問

Q. 引き上げはいつから始まりますか。
A. 2027年9月に65万円から68万円になるのを皮切りに、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円と3段階で実施されます。日程は法律ですでに定められています。

Q. 対象になるのはどんな人ですか。
A. 賞与を除く毎月の報酬が66万5000円以上の会社員・役員です。66万5000円未満の人の保険料は変わりません。

Q. 会社員自身が何か手続きをする必要はありますか。
A. 標準報酬月額は給与から自動的に決定されるため、対象者本人が特別な手続きを行う必要があるとは、厚生労働省の資料では示されていません。

Q. 将来もらえる年金は本当に増えるのですか。
A. 新しい上限に該当する期間分については年金額も増えます。ただし公表額はいずれも2024年度価格の概算であり、実際の受給額は今後の賃金・物価の動向によって変わり得ます。

Q. 保険料は会社と折半ですか。
A. 本記事で示した金額は労使折半後の本人負担分です。会社側の負担額も同様に増加します。

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まとめ

今回の引き上げは、上限に達している一部の会社員の保険料・年金額を変えるだけの話ではない。「負担能力に応じた負担を求め、将来の給付を厚くする」という考え方のもとで、厚生年金という一つの財布全体の底上げを狙った制度変更だ。自分が対象になるかどうかだけでなく、上限そのものが賃金の伸びに応じて動く仕組みだと理解しておくと、次の見直しが話題になったときにも慌てずに済むはずだ。

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